ネタのような話…
ある日の夕方、結構混んでいる電車の中で吊り革につかまって立っていると、後ろの方で男性の声がしました。
「先輩! また先輩の家に行って、奥さんの手料理が食べたいで~す!」
張りのある、その車輌の隅々まで響くような大きな声でした。
先輩と呼ばれた男は、少し間をおいてから、やや小さな声で答えました。
「奥さんは…いないよ」
「え…!? 奥さん病気ですか!? それともケンカでもしたんですか!?」
「…他の男性と親しくなって、離婚したんだよ…」
「ええ~~っ!! 奥さんに男がデキて、離婚したんですか~っ!?」
あまりにも大きな声と意外な展開に、その大きな声の主の顔を盗み見しました。
カンニングの竹●のような風貌の、黒ぶちのメガネをかけた背の低い、30代半ばぐらいの男性です。
「それで奥さん、今どこにいるんですか!?」
「九州の実家に帰って、その男性と暮らしているよ…」
「え~~っ!! 奥さんの実家でその浮気相手と暮らしているんですか~っ!?」
「おまえね、どこの大学だっけ…?」
「え…? 早●田の法学部ですが…」
「そうか…おれは今後、早●田の法学部を出た奴を一切信用しない!」
「え…? どうしてですか?」
「俺はこの話をおまえに2回したよね?」
「え…そうでしたっけ?」
「それを何でこんな混んでいる電車の中で、蒸し返されなきゃいけないんだ!」
「怒ったんですか? 先輩!」
「……」
「先輩…!」
見ると周りのほとんどの人が、失笑していました。
うつむいたままの先輩の顔は、最後まで見ることが出来ませんでした。