昨年は事務所と長野の別荘と、娘の家の引越しでバタバタとした日が過ぎ、私と主人と姑が交代でグズグズと体調を崩し、それもやっと落ち着いて穏やかな日が過ごせるようになったと思ったら、昨日の夕方、10歳半のオス猫のレオくんが急に倒れ、今朝8時半に息を引き取りました。
4年前にメス猫のモモ、2年前にオス猫のポッキーが我が家にやって来てから、私を取られたレオくんはいつも主人にベッタリ!
ここ数日前から締め切りに追われ、仕事机の後ろのベンチで仮眠を取っていた主人のそばで、餌もろくに食べずに昏々と眠り続けていました。
「おまえ、ちょっと寝すぎじゃないの?」
昨日の夕方も椅子の背と主人の背中に挟まれて寝ていたのですが…。
「ちょっと来てくれ! レオの様子がおかしい!」
椅子からボトッと床に落ち、立ち上がろうとした瞬間、右の前足と後ろ足に力が入らず、もがいていると言うのです。集まっていたアシスタントさんに仕事を託し、小雨の降る中レオを近所の動物病院に連れて行きました。
レントゲンと血液検査の結果「右の前足と後ろ足の感覚がまったくありませんね。脳にガンが出来ているか、ウィルス性感染症か…。肺も腫れて肺炎を起こしている症状ですね…」と説明を受けている最中に、ベッドで何度か痙攣を起こしました。
「今夜がヤマかもしれません…」
「え…!?」
夜間病院の連絡先と、また痙攣を起こした時の、応急処置の座薬をもらい、暴れても大丈夫なように、大きめの段ボール箱にタオルを敷いて寝かせました。
「点滴と何本かの注射のせいでトイレに行きたがると思いますが、足が不自由なので介護してあげてください」
私のベッドの足元に段ボール箱のベッドとトイレと水と餌を並べ、徹夜を覚悟で枕もとの電気を点けっぱなしで横になりました。
ふと見ると足が動かないはずなのに、トイレの砂の上にレオがしゃがんでいました。手を貸すことも無く、自分でオシッコとウンチを済ませ、段ボール箱に戻らずに床の上に横になりました。抱っこをしてあげてもすぐに床に降りてしまいます。
トイレの始末をしている間に、今度は台所の奥にあるアシスタントさんの机の足元で横になっていました。レオが好きな缶詰を皿に入れて口元に近づけると、匂いを嗅いでからガツガツと食べ始めました。
(今夜がヤマだなんて…。このぶんならまだ大丈夫だよ)
台所の食器を洗い、明日の朝すぐ出せるように、家中のゴミを袋に詰めて戻ってくると、また姿が消えていました。机の奥にも階段の下にもタンスの裏にもいません。
1時間以上探し回り、私の寝室の、大きなスキャナが置いてある事務机の、引き出しの下の奥に尻尾を見つけました。手前にタンスと本箱とパソコンが置いてあるので、手を伸ばしても届きません。
その瞬間(ああ、ここを死に場所に選んだんだな…)と思いました。
私にも主人にも苦しむ様子を見せたくなかったんでしょう。
時計を見ると夜中の2時半…。時々聞こえる荒い息と、壁を掻く音で1時間おきに目が覚めました。
そして朝の7時…。
その時はまだ息づかいが聞こえていました。
何とか病院が開く時間まで持ちそうでした。
朝食の用意をし、洗濯物を干し、他の猫や犬たちに餌をやり、鉢花に水をやり、寝室に戻ってきたら、その気配が消えていました。
「レオくん…」
かすかに見えている尻尾がピクリとも動きませんでした。
こんなに天気がいい、玄関先に花がいっぱい咲いている春の日に、私たちに手をかけることもなく、あまり苦しまずに逝くなんて…。
レオくんらしいな…と思いました。